少しだけ

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    なかまくら
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    「半分、出せるか?」 父は言った。

    補助輪のついていない自転車を、離さないでね、と懸命な私に、父は言った。

    「半分は、自分で頑張らないと、できるようにはならないさ。初めから100%じゃなくていい。でも、50%の頑張りは、するんだよ」

    私は、そんなに頑張れる子には育たなかった。受験も大変で、私立大学の高い学費を無理して工面してもらうことになった。けれども、私は頑張れなくて、留年もしてしまう。悪い友人に誘われて、遊びが忙しく、単位を落としてしまったのだ。

    父と母、それから私。家族会議が開かれた。

    「半分、出せるか?」 父は、じっと考えてから、そう言った。

    「うん」 私は、答えた。

    翌年、私は晴れて大学を卒業し、会社員になった。仕事は大変で、思うようには進まなかった。もっと頑張れ、と叱咤激励される古い風土のある会社だな、と耐えるための呟きをSNSに散らかして、なんとかやり過ごしていた。

    そんなある日、父が倒れた。病院に駆けつけると、母がいた。一命はとりとめたが、今までのようには働けないだろう、ということだった。

    「・・・半分、出せるよ?」 私は言った。

    言って、思った。なんて情けない言葉だったのだろう。どうして、「全部」って言えないのだろう。父もそうだったのだろうか。知らないところで、たくさんの無理をして、この家を支えてくれた父は、どんな気持ちだったのだろうか。

    私の長い沈黙を待って、母は言った。

    「あなたの人生だもの。全部、あなたのために使っていいのよ。」

    「でも・・・」 そう言う私に、

    「でも、そうね・・・。じゃあ、少しだけ、お手伝いをお願いしようかしら」

    「うん・・・。じゃあ、少しだけ」

    私の少しだけの仕送りはそうして始まった。

    2日間の休みをもらった後、私は会社に出勤する。同僚の一人一人が違って見えた。頑張ってみようと思った。

    今よりも少しだけ、もう少しだけ。

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