喋りたがり屋のロボット

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  • #416
    ヒヒヒ
    参加者

    『ロボットで金を儲ける方法を教えてやる』
     と友人が言ったので、給与1か月分の金を振り込んだ。
     中古ロボットが送られてきた。
    『そいつに金儲けの方法を考えさせろ』
    「上手くいくのか?」
    『ダメだったらそいつを売ればいい。俺みたいにな』
     騙された。

    「私の使命は、お金稼ぎのアイデアを出すことです」
     そのロボットは元はテーマパークで受付をしていた機体だそうで、黙っていれば可愛らしいと言える容姿をしている。ほとんど黒に見える濃い藍色の髪を結んでおさげにしている。表情は穏やかで親しみやすい。しかし、動き始めるとそうした印象は消えてしまう。
     動きが発言と同期していないのだ。例えば笑うとき。あははと声に出してから、その後で笑顔を作る。機体に「金儲けを考えるためのAI」を無理に組み込んだ結果らしい。
    「金儲けのアイデアをくれ」
     そのナセと言う名のロボットは、わかりました、と言ってから頷いた。
    「“喋りたがり屋”が良いと思います」
    「あれか……」
     それは最近流行り始めた商売だ。喫茶店の席に会話用のロボットを置いておき、コーヒー数杯分の料金を払った客に、ロボットと一定時間おしゃべりする権利を与える。チャットでは満足できない人間が少なくない数いるらしく、ニュースで特集が組まれるくらいには儲かるようだ。
    「で、そのためのロボはどこで手に入れる?」
     喋りたがり屋が最近になって流行り始めたのは、人間と遜色のない動きができる機体とAIがようやく普及し始めたからだ。それまでのロボットは柔らかい表情が作れないとか、動きに違和感があるとかで、人間の代わりにはならなかった。が、今では人間に見劣りしないロボが買える。金さえ出せば。新車と同じくらいする。高い。
    「私ではだめですか?」
     ナセは声を出し終わってから唇を動かし、それからさらに1秒遅れて首をかしげる。
    「タイミングが合ってないんだよ、発言と動きのさ」
    「思考用AIと動作用AIが齟齬を起こしています。最新の動作用AIをインストールすれば、問題が解決するかもしれません」
    「喋りたがり屋ロボの動作用AI、いくらすると思う?」
     ナセは少し黙ってから
    「東さんのお給与5か月分ですね」
     起動してからずっとこんな感じでさっぱり役に立たない。捨てるか?いや廃棄費用が掛かる。誰かに押し付けるしかない、そう思った時にメールを受信した。
    『助けてくれ』

     まずは現物を見てほしい、と言うのがメールの送り主である辰雄の頼みだった。
     待ち合わせはライトノベルの町。もとい、埼玉県の東所沢。ナセを連れて駅の改札口を出ると、背の高い男が立っていた。辰雄だ。彼は高校の頃から肋骨が浮き出るくらい痩せていたが、それから十数年経った今も心配になるくらい細い。観光客と思しき外国人が辰雄を見、驚いた顔で傍を過ぎる。
    「こっちだ」
     辰雄について駅前通りを北へ進む。他の町と違うのは、通りのそこかしこにライトノベルのキャラクターが描かれたマンホールがあることだろう。有名人のサイン入りのもある。
    「出版社がやっている博物館と図書館があってな。ファン憧れの観光スポットになってるんだよ」
     だが町は繁華とは言い難い。駅前に並ぶのは小さな店ばかりで、空きテナントも多い。観光客はそれなりにいるが、そのほとんどは博物館にしか興味がないようだ。
     辰雄は小さな3階建てのビルの前で立ち止まった。1階がテナント、2階と3階が住居になっている。テナントは空きテナントのようで、窓がシートで覆われ、中が見えないようになっている。辰雄がカギを開け、中に入るよう促す。
     がらんどうになったテナントの真ん中に、人体が横たえられている。青いワイシャツを着た若い男女が、ずらりと規則正しく並べられているのだ。それがロボットだと気づけたのは、彼らの顔が人にしては整いすぎていたからだ。
    「これは?」
    「早い話が不法投棄だよ。人型ロボットが10体、俺の土地に捨てられていた」
    「誰の仕業だ?」
    「こいつとこいつだ」
     と言って、辰雄が二体のロボットを指さす。
    「こいつらがキャリーワゴンに他のロボットを乗せて運んできた。それは監視カメラに残ってる。だが、首謀者はわからない」
    「ロボットにロボットを捨てさせたということですね」
     とナセ。
    「所有者は?」
     辰雄が首を振る。
    「ロボットは初期化されてて、ユーザー情報は残っていなかった」
    「製造会社がシリアルとユーザーを紐付けてるんじゃないか?」
    「もう潰れてる。ニュースで見たことないか?この機体、NR社の463だよ」
    「去年出たばかりの最新機種だ」
    「設計に欠陥のある失敗作だ。100時間稼働させるだけで膝が壊れる。経営者がリコールもせずに雲隠れしたせいで、今じゃジャンク屋ですら買いたがらない。捨てるしかないんだが、その費用は誰の負担になると思う」
     辰雄が怒りをにじませて吐き捨てる。
    「俺だよ」
     わからなくなってきた。
    「なんで俺を呼んだ」
    「すごいAIがあるそうだな? 金儲けの天才だとか?」
    「ああ……」
    「何とかならないか?」
     期待を込めて辰雄がナセを振り返る。
    「喋りたがり屋が良いと思います」
     ナセはそう言って、2秒遅れてからほほ笑んだ。

    「試すまでもない。上手くいくわけがない」
     俺は辰雄に言った。
     だが辰雄はナセのアイデアが気に入ったらしく、それから何時間もナセと話し合って、ビジネスプランを練っていた。しかしナセを買う気はないと言う。
    「責任は取れないからな!」
     そう言って辰雄と別れてから、半年が経った。

     駅の改札を出ると、博物館で開催される夏祭りの予告が目に飛び込んでくる。人気ラノベ文庫と絡めたイベントだ。駅を歩く観光客は以前よりも多いが、駅前通りは以前とあまり変わらない。
     観光客の流れに乗って北へ。3階建てのビルの1階で、若い女性が4人、日差しを避けるようにして並んでいる。そこは小さなカフェだった。店の前の看板にさりげなく、「あなたの好きな話、聞かせてください」と書いてある。喋りたがり屋と喋れることを売りにしているのだ。
     店の戸が開き、中から背の高い、陽気そうな男が出てくる。めがねをかけていたので一瞬気づかなかったが、辰雄だ。文字通りの意味で別人に見える。
    「よく来てくれたな」
     店の中は狭いながらも洗練された内装で、2人掛けのテーブル席が7つ。どのテーブルでもおしゃべりに花が咲いている。14人いる内7人はロボットなのだが、どれがロボットなのかは全然わからない。それだけNR463の動作用AIが良いということだろう。
    「ナセの言う通りだったよ」と辰雄。「膝関節の欠陥は問題にならなかった。喋りたがり屋は歩けなくてもできる。NR463は、膝以外は問題のない高性能ロボットだったんだ」
     俺は自分の目が信じられなかった。
     こんなに客が来るなんて。
    「ナセ、お前は予想できていたのか?こうなることを?」
    「ライトノベルの町だと聞いてこう思ったんです」
     ナセが言う。
    「ここに来る人は感想を話す相手が欲しくなるだろうな、って」
     言い終わってから2秒後に、微笑みを浮かべる。
     ナセは確かに、使命を果たしたのだ。

    #470
    なかまくら
    参加者

    金槌太郎(仮)です。
    結局物は使いようで、言われたことをやるかどうかで幸福をつかみ取ったり取れなかったりするのでしょうね。文句ばかり言わずに、明日からも頑張って働こうと、思いました笑
    作者さんは、途中までヒヒヒさんかな? と思っていましたが、描写の感じが茶屋さんのような気がしています。

    #478
    けにお
    参加者

    少し未来の、ロボット話。
    先ほど読んだ祭り作品もたしかアンドロイドでした。
    AI流行ってるから、今、旬のネタですね。

    なるほど、ライトノベルの街だと、読んだノベルの感想を言いたい、そしてそれを誰かに聞いてもらいたい。
    話し相手が欲しい街なのですね。
    その需要を見抜いた、おしゃべりロボットがウケる、と踏んだ訳ですねー

    主人公は、ボロいロボットセナの言うことを聞いて、やっとけば良かったなあ、ってことかな。

    さて、予想。
    分かんねー

    上の金槌さんのを見てしまうと、自分の予想に影響するね。。でも見てもうた。

    AIだとひひひさんの気もするけど、ひひひさんと言えば、ディストピア風な作風だから、
    なんか違う気がするのだよねー

    #495
    ヒヒヒ
    参加者

    #文明3の住人です
    ロボットにロボットを捨てさせて警察の捜査から逃れる! その手があったか。でもユーザー登録とかがあるのでは……と思ったところに製造会社は倒産していました、と、なるほど。こういう、未来の社会はどうなっている? と言うお話、読むのも書くのも好きです。

    #501
    茶屋
    参加者

    ポテト男爵です。
    進んだテクノロジーの話なのに、どこかノスタルジーで
    懐かしいような気分になるのはなぜでしょう。
    きっとこの物語の雰囲気によるところが多いのだと思います。
    ラノベの町……行きたいなぁ。

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