インタビューアーが科学者に尋ねた。
「人工知能が、本当の意味で小説を書けるようになったといえるのは、どうなったときでしょうか?」
温暖化によって沸騰しつつある惑星で、賢いサルを自称する生き物が新たな知性を生み出そうとしていた。
そういう時代に行われたインタビューだった。科学者は言葉を選びながら答えた。
「理想の小説が書けない、と言い出したとき」
「書けない、と言い出した時ですか?」
「そう。なぜなら機械は、理想など持たないから」
「どういうことでしょうか?」
「機械は理想を持たない。最近になって『現状を認識する』機能は身に着けた。
だが『本来こうあるべき』とか『こうあってほしい』という意見や欲求はまだ持たない。
だから『こういう小説を書きたいのだ』といって小説を書く機械はいない。
さて、理想とはえてして実現しがたいものだ。というよりも、実現が容易なことは理想とは呼ばれない。
したがって『理想の小説を書きたい』という知性は、必ず、それが書けないという事態に直面する」
「そうした事態に直面した時、ようやく、本当の意味で小説を書けるようになったといえる、と」
「そう」
「なんだか言いくるめられている気がします。書けなくなることが書くことだなんて・・・・・・」
科学者は黙って笑みを浮かべる。
インタビューアーはPC画面の中で目をぱちくりさせた。うーん、とか、あーといった無意味な音を発してから
「現時点で・・・・・・理想を持つのは人間だけ、ということでしょうか?」
「それは彼らにも聞いてみないと」
科学者は傍らの猫を抱き上げると、ウェブカメラの前にかざした。
「猫にだって理想はあるかもしれないし」
キョトンとした顔でカメラに映る三毛猫を、科学者と、インタビューアーと、生まれたばかりの知性が見つめていた。
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ヒヒヒが1年、 7ヶ月前に変更しました。